書く。口にできないから。　　　　　　　　　　　　　　　　

授業が２０分早く終わってラッキーだと思った。

しかし

家に帰る途中の大学構内であの人を見つけてしまった。

今までにももしかしたら僕が気付いてないだけで大学ですれ違ったりしていたかもしれない。

でも今日は、

あの後姿、あの髪、あの服、あの自転車のこぎ出し方。

見紛うことなく

僕が１年以上片思いし、３年弱付き合って、別れて４ヶ月以上経った今でも夢に見るあの人だ。

あの人が僕に気付いたかどうかはわからないが、

あの人は門に向かって自転車をこいでいた。

あの人とは帰る方向が一緒だ。

僕がいつものスピードで自転車をこいだら追いつき追い抜いてしまう。

僕は態とペダルをこぐ足を緩めた。

あの人も僕も門を出た。

僕は用も無いのにブレーキをかけ自転車を止め、ケータイを取り出した。

そのまま進んだら百万遍の信号待ちで並んでしまうから。

ケータイを弄るふりをしながら態と青信号を１回見逃した。

僕の方からあの人に気付かれるような真似はしなかった。

別れたその日に言われた「もう二度と会わない」というあの人との最後の約束を

僕はまだ忠実に守り続けている。

本当は声をかけたかった、かけて欲しかった。

「久しぶり」「元気だった？」「おめでとう」「ごめんなさい」。

けれども僕にはその資格が無い。



家に着いてから、正確には部屋への階段を登りながら泣いた。

部屋に入って、ベッドにダイブして、一時間ほど泣き続けた。

別れた日に貰ったチョコレートは食べずに捨てた。

あの人の誕生日に買ったペアネックレスは告白した日に行った鴨川沿いのベンチから川に投げ捨てた。

疎ましかった父親のドライブの誘いにもよく応じるようにした。

ほんの少しバイトもした。

「東京に遊びに来い」と言う友達の厚意に甘えて東京にも行った。

ベースを練習し始めた。

新しい服も買った。

模様替えもした。

色々した。

忘れようとした。

変わろうとした。

でも、今日のほんの５分で全てが水泡に帰した。

僕の心が４ヶ月前まで巻き戻された。

冬が終わり、春が過ぎて、夏になっても僕はまるでちがってない。

僕の目はまだ涙を流すのに飽きてはいないようだ。



今日の授業が通常通り、いや、あと５分長引いてくれてたらこんな気持ちにならずに済んだのに…

「授業ないならカラオケに行こう」という友達の誘いも断らずに済んだのに…